オーダー品の「洗面器」があると知ったのは15年ほど前です。
設計事務所の方から、大理石を加工した作家さんのものを見せられ「これを陶磁で作れない?」と声を掛けられました。 「ま、大きな丼鉢だと思って作ってみて下さい」 などと、気軽なことをおっしゃいます。
本体は確かに大きな丼です。仕事を受けて1ヶ月ほど、生地の乾燥と焼成に多少気を遣いましたが「歩止まり」は悪くなく焼き上がりました。手間が掛かるのではと考えていた排水金具の取り付けは、幸い時間を頂けたのでどうにかクリア出来ました。
当時、私たちは「手洗い鉢」と称していましたが、今はオーダー品も良く知られるようになり、呼称も「洗面ボウル」で通るようです。
デザインも多種多様です。
若い方の斬新なアイデア製品に優れ物が多い。
先日久々に顔を合わせた設計屋さんから、破損した「洗面ボウル」の代替え品の製作を打診されました。
お客さんがヘヤードライヤーを落とし傷が入ったそうです。 作り直す場合、サイズは大き目に、とのお話。 生地寸が600?ほどになると、陶土は7・8k、大き目のバケツを伏せたほどの土塊になります。ロクロに乗せたあと、どん、どん、と「拳」で突き、穴を開ける。指先の仕事でなく腕っぷしの仕事です。 あれから15年経った今、若いうちは技量不足、年齢が行くと今度は体力が追いつきません。 「4・50代の油の乗った職人の方が他におるのでは?」 「いや、普通は洗面器が出来たあと、設置の別工事で設備屋さんの手を借りることになる。予算が少ないのでそれがきつい。こちらは取り付けと一括で発注出来るので」 「なるほど。ロクロの技量を見込まれての発注ではない・・?」 設計屋さん、笑って、 「そうは言っておりません」 私、しばらく考え、 「分かりました。また”お鉢”が廻って来たと考えて、有難くお受けします」 駄洒落れを言った。 設計屋さん、暫し無言。 「さ、仕事、仕事」と立ち去った。 |